縄文鼓(じょうもんこ)

考古学で有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)といわれている縄文時代の特異な土器を、土取利行が十余年の調査研究を続けて考古学者、陶芸家、美術家など多くの専門家とプロジェクトチームを組んで復元した土器の太鼓。1990年8月20日、八ヶ岳山麓の尖石考古館与助尾根広場での夜を徹して行われた前人未到の演奏は、これまで閉ざされてきた縄文音楽の扉を開くことになった。

1980年8月の夜更けて、信州八ヶ岳の麓、土取利行は縄文時代の与助尾根遺跡に膝つき、闇に目をつぶる。そこの窪みは縄文人の悲喜こもごもが眠る竪穴住居の跡である。縄文土器に唇を当てて息を吹き込む。石笛の音を響かす。そして縄文鼓を指でうつ。掌でうつ。身体一杯をバネにして激しく、縄文のリズムを打ち出す。縄文鼓の円陣を、逆時計回りに移動しながら、右から左へと一つ一つの縄文鼓に語りかけるシルエットは、時間に抗がい遡りながら縄文の音を手掴かみしようとする懸命な祈りに似た気持ちに重なって象徴的だ。
東雲に光がさしはじめると、縄文の音の世界に小鳥たちが待ちかねたかのように
あつまってきた。土取利行は静かに自らの挑戦に幕を引いた。麻衣を纏い、朝霧の中を裸足でその場を去ろうとする後姿が美しかった。
小林達雄( 国学院大学教授・考古学)

有孔鍔付土器
縄文時代中期(4500年から5000年前)に中部山岳地帯、北陸、関東、東北南部に突如登場した特異な形式の土器。水平に作られた口縁部の頚に隆帯をめぐらせ、一定間隔で小孔が穿たれている。胴部には人体モチーフや
赤色塗彩が施され、高さ10~60センチくらいまで大小がある。考古学者の山内清男は太鼓説、藤森栄一は種子壷、また武藤雄六は醸造器説を提唱し、学界で定説を得ていなかった謎の土器。

 

土取利行・縄文鼓演奏

1990年 長野県尖石遺跡与助尾根広場(縄文鼓初演)
1991年 東京ラフォーレミュージアム
1991年 岐阜県古川町気多若宮神社境内
1996年 埼玉県彩の国芸術劇場/メキシコ古代楽器集団トリブとの共演
1997年 長野県さらしなの里歴史資料館屋外広場
2000年 パリ・シャトレ劇場
2000年 長岡新潟県立歴史民族博物館開設記念(屋外)
2002年 香川県県民ホール/アイヌソングとの共演 1991年 福島県立博物館/対談:小林達雄
1995年 茨城県立博物館/レクチャー&デモプレイ
1996年 岐阜県久々野町縄文シンポジウム/共演:小山修三、藤井知昭、崎山理
1998年 東京TEPIAホール/レクチャー・対談:名久井文明
2000年 金沢市民芸術村アート工房
2000年 フランス日本大使館/レクチャー
2000年 東京自由大学/シンポジウム共演:小林達雄、鎌田東二、鶴田真弓ほか
2002年 三方町縄文博物館/シンポジウム共演:梅原猛、西田正規、安田喜憲
2002年 香川県県民ホール/レクチャー

縄文鼓TV番組

1991年 NHK教育テレビ/ETV特集「縄文の音を求めて~復元有孔鍔付土器」
1991年 NHK BS2/「縄文の音霊」(尖石遺跡での演奏中継)
1992年 NHK BS1/「ミステリーゾーン飛騨」
1995年 NHK BS2/「ネイティブドリーム・メキシコ古代楽器と縄文鼓の共演」
2000年 NHK教育/こころの時代「縄文の音と心」
2000年 TBS/筑紫哲也ニュース23「ミレニアム特集」吉野ヶ里遺跡より中継